Q 原状回復の範囲に争いがある場合でも、原状回復を留保して鍵を返却すれば明渡義務を果たしたことになりますか。


原状回復義務の範囲に争いがある場合、「明渡」がいつとなるのか、という点も争点となることがあります。一般的には賃貸借契約終了後も明渡をしない場合には違約金が設定されていることが多いため、「明渡」の時期次第で賃料相当損害金の金額も異なってくることが多くあります。
賃貸借契約の条項として、原状回復義務の範囲が明確に定められており、原状回復義務を完了してから明け渡すことが読み取れる場合には、債務の本旨に従った義務の履行のためには、原状回復義務を果たす必要がありますので、鍵の返却だけでは「明渡」とならない可能性があります。もっとも、一定期間あれば賃貸人側でも原状回復義務を代行し費用請求することができるため、一定の範囲にとどまるものと考えられます。
そのため、不動産オーナーとしては、鍵の受け渡しは拒否し、原状回復を求めるか、不動産オーナー側で原状回復義務を代行して費用を請求したうえ次のテナントを入居させるかの方針を検討することが多いといえます。反面、テナント側としては、原状回復義務を履行してしまうか、不動産オーナーが求める原状回復義務は争った上、鍵を返却し、鍵の返却をもって明渡に応じたと主張するか、少なくとも一定期間が経過すれば賃料相当損害金(違約金含む)との相当因果関係がないと主張するかを選択することが多いと考えられます。

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