Q 店舗・オフィスビル・法人契約の社宅などの事業用の建物賃貸借の場合に原状回復特約はどのように考えればよいでしょうか。


事業者が契約当事者となる場合には、消費者契約法が適用されず、平均的な損害を超える損害賠償額の予定を無効とする同法9条1項1号、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする同法10条が適用されません。
しかし、通常損耗をテナント側が補修する旨の原状回復特約が無効とされた最判平成17年12月16日判時1921号61頁は、特約が明確に合意されているかどうか、という観点から判断をしており、一般に、事業者が賃借人となる賃貸借契約においても妥当する考え方といえます。上記最判以降の裁判例においても、事業者が賃借人の賃貸借契約において、原状回復特約を無効とする例もあります。
もっとも、事業者が賃借人である場合には、事業者同士での契約交渉がなされていたり、事業の性質によっては原状回復の範囲が広くなることが一般にあり得ることなど、消費者が住宅用建物を賃貸する場合と異なる要素もあり、明確性の原則(賃借人が通常の原状回復義務の範囲を超えて修繕義務を負うことへの認識)が緩やかに判断される可能性はあります。

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